大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1138号 決定

抗告人(債権者)

青木治一郎

外六名

右七名代理人

塚田秀男

外二名

相手方(債務者)

七福水産株式会社

右代表者

山崎章次郎

相手方(債務者)

山崎章次郎

山崎ユキ子

主文

本件各抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人らの負担とする。

理由

一抗告人らは、「一原決定を取り消す。二本案判決確定に至るまで、相手方(債務者)山崎章次郎は、同七福水産株式会社の取締役兼代表取締役の、同山崎ユキ子は同じく取締役の、各職務を執行してはならない。相手方(債務者)七福水産株式会社は、同山崎章次郎、同山崎ユキ子に対し、それぞれその職務を執行させてはならない。右期間中、右取締役兼代表取締役の職務を行わせるために適当な者を、右取締役の職務を行なわせるために適当な者を、それぞれ職務執行者に選任する。三申請費用は、原審、抗告審とも相手方(債務者)らの負担とする。」との裁判を求め、抗告の理由は、「原審は、抗告人らの仮処分申請を必要性の疎明がないとして却下したが、抗告人らの申請は、法律上及び証拠上理由がある。」というにある。

二疎明資料によれば、相手方七福水産株式会社(以下、相手方会社という。)は、昭和四五年二月二〇日に設立された水産物加工販売等を目的とする会社で、現在資本の額二〇〇万円、発行済株式総数四〇〇〇株であり、東京都中央卸売市場内に、東京都から土地の使用を許可された抗告人青木治一郎所有建物を賃借して営業をしてきたものであること、右建物は、右土地の賃借期間が満了した昭和五四年一二月三一日の直後である同五五年一月五日に火災によつて焼失し、東京都所有施設等にも損害を与えたこと、この火災を契機に、相手方会社の株主である抗告人ら、とくに抗告人青木治一郎と、相手方山崎章次郎との関係が悪化し、後者から前者への相手方会社の株式九〇〇株の譲渡の有無をめぐる争いが相手方会社経営の実権争いにまで発展したこと、相手方会社の設立以来の代表取締役であつた抗告人青木章子(同青木治一郎の妻)は、昭和五五年六月一一日解任され、これより先同年五月二五日相手方山崎章次郎が代表取締役に就任していたこと、昭和五五年七月二六日に相手方山崎章次郎、その妻同山崎ユキ子の取締役を解任する件を議案とする臨時株主総会が開催されたが、前記株式譲渡についての見解の相違からこの議案の可否につき抗告人らは可決されたとし、相手方山崎章次郎、同山崎ユキ子らは否決されたとして争つていること、及び抗告人らは、このような事態において、相手方山崎章次郎、同山崎ユキ子の取締役解任確認請求を本案として本件仮処分申請に及んだものであることが一応認められる。

ところで、抗告人らは、本件仮処分の必要性として、相手方山崎章次郎、同山崎ユキ子が相手方会社の代表取締役ないし取締役にとどまつて居るかぎり、東京都からの土地貸借の条件の決定、新工場を建築するについての資金借入れ、建物焼失についての諸問題の処理等の面で不適当であり、相手方会社及び株主もしくは債権者らに回復し難い損害を被らせるおそれがあると主張する。しかしながら、疎明資料によれば、相手方会社は、その設立以来事実上相手方山崎章次郎が経営主となつて事業を継続してきたものであつて、抗告人青木章子は非常勤で名目上の代表取締役にすぎながつたこと、本件建物の焼失後相手方山崎章次郎は、早速相手方会社の再建に乗り出じ、千葉県東葛飾郡浦安町に水産練製品の仮工場を設置して事業の継続をはかる一方、自ら単独の代表取締役となつた昭和五五年七月以降も新築建物の寄附を前提に東京都中央卸売市場内の施設利用が認められ、同年八月には東京都への寄附申込書の提出と相前後して中野角工業建設株式会社との間に新築建物の工事請負契約を締結し、同年一〇月の完成が予定されたこと、右建築に要する資金及び前記建物火災による損失補償を含む相手方会社の運転資金として、相手方山崎章次郎は、少なくとも一〇〇〇万円程度の個人預金のほか、その所有にかかる東京都中央区月島三丁目一三二五番の宅地115.00平方メートル及び相手方山崎ユキ子との共有にかかる同地上の鉄骨造陸屋根三階建の事務所兼作業所を売却してその代金をあてることを企図してすでに価格九〇〇万円で不動産屋に売却依頼をしていること、相手方会社の再建については、従業員及び前記市場の関係業者間に相手方山崎章次郎に協力する姿勢がみられること等が一応認められるのであつて、これらの事実関係に徴すると、抗告人ら主張の本件仮処分の必要性についての疎明は結局ないことに帰する。なお、抗告人らに保証を立てさせて本件仮処分申請を許容するを相当とするような事情は疎明資料上窺うことができない。

三以上のとおりであるから、本件仮処分の申請は、これを認めるに由なく、その旨の原決定は相当であるから本件各抗告を棄却し、抗告費用を抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 高野耕一 石井健吾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例